札幌訴訟 訴状
2015(平成27)年2月10日 札幌地方裁判所に提出
原告 植村隆
原告訴訟代理人弁護士
伊藤誠一、秀嶋ゆかり、渡辺達生、小野寺信勝、成田悠葵、竹信航介、齋藤耕、大賀浩一、福田亘洋、川上有、上田絵理、大類街子 ほか94名
被告 櫻井よしこ、株式会社新潮社、株式会社ワック、株式会社ダイヤモンド社
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請求の趣旨
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1 被告櫻井良子は、運営するウェブサイト「櫻井よしこオフィシャルサイト」(http://yoshiko-sakurai.jp/)上に掲載している別紙名誉毀損部分一覧表記載の各記述を削除せよ。
2 被告株式会社ワックは、その発行する「雑誌WiLL」に別紙謝罪広告目録1記載の謝罪広告を、別紙掲載要領目録1にて、1回掲載せよ。
3 被告株式会社新潮社は、その発行する「週刊新潮」に別紙謝罪広告目録2記載の謝罪広告を、別紙掲載要領目録2にて、1回掲載せよ。
4 被告株式会社ダイヤモンド社は、その発行する「週刊ダイヤモンド」に別紙謝罪広告目録3記載の謝罪広告を、別紙掲載要領目録3にて、1回掲載せよ。
5 被告櫻井良子は、別紙謝罪広告目録4記載の謝罪広告を、別紙掲載要領目録4にて、同被告の運営するウェブサイト「櫻井よしこオフィシャルサイト」(http://yoshiko-sakurai.jp/)上に掲載せよ。
6 被告櫻井良子及び被告株式会社ワックは、原告に対し、連帯して、金550万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 被告櫻井良子及び被告株式会社新潮社は、原告に対し、連帯して、金550万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
8 被告櫻井良子及び被告株式会社ダイヤモンド社は、原告に対し、連帯して、金550万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
9 訴訟費用は、被告らの負担とする。
との判決及び第6項ないし第8項につき仮執行の宣言を求める。
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請求の原因
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第1 はじめに
1 原告は、札幌市内に居住し、市内の北星学園大学に勤務する非常勤講師である。
朝日新聞記者時代の1991年に慰安婦に関する新聞記事を書いた原告は、この新聞記事について、ジャーナリストないし出版社である被告らから、雑誌・週刊誌の記事及びインターネット上で「捏造」であるという誹謗中傷を受けている。この訴訟は、被告らが原告の名誉を毀損したことを原因として、謝罪広告の掲載等の名誉回復措置及び損害賠償請求を求める事案である。
原告の記事が「捏造」であるとする被告らのいわれのない攻撃が続けられるなか、原告が勤務する北星学園大学には「あの元朝日(チョウニチ)新聞記者=捏造朝日記者の植村隆を講師として雇っているそうだな。売国奴、国賊の。植村の居場所を突き止めて、なぶり殺しにしてやる。すぐに辞めさせろ。やらないのであれば、天誅として学生を痛めつけてやる」等の多数の脅迫状が届けられている。2014年9月12日には、北星学園大学に対し「辞めさせないのか。ふざけるな。爆弾を仕掛けるぞ」などと脅迫電話をした男性が威力業務妨害罪で罰金刑を受けるという事件も発生した。更に、原告の娘の写真がインターネットで公開され、「こいつの父親のせいでどれだけの日本人が苦労したことか。親父が超絶反日活動で何も稼いだで(原文ママ)贅沢三昧で育ったのだろう。自殺するまで追い込むしかない」、「なんだまるで朝鮮人だな。ハーフだから当たり前か。さすが売国奴の娘にふさわしい朝鮮顔だ」などと極めて卑劣な攻撃を受けている。
このように、原告は「捏造記者」であるというレッテルを貼られ、原告の過去の言論を否定したい者たちによって脅迫ひいては暴力による恐怖に晒されているのである。
被告櫻井良子は、著名なジャーナリストであり、強い発信力を有するが、原告やその家族、北星学園大学が、このように脅迫や暴力の恐怖に晒されていることを知りながら、今なお雑誌やインターネット上で原告の記事が「捏造」であるという誹謗中傷を繰り返し、原告には教員の適格性がないという人格非難まで続けている。
そして、被告櫻井良子のこれらの発信に煽られるかのように、北星学園大学や原告、家族に対する攻撃はエスカレートの一途を辿っているのである。
このような状況においては、原告のジャーナリストとしての名誉、人としての尊厳を言論の力のみによって保障することはもはや不可能であり、原告とその家族をいわれのない人権侵害から救済し保護するためには、被告らによって流布された「捏造」というレッテルを、司法手続を通して取り除くほかはない。
本訴訟は、被告らによる原告に対する名誉毀損を明らかにし、原告の名誉を回復することにより、原告とその家族、北星学園大学に対する「言論テロ」ともいうべき重大な人権侵害を阻止することを目的とするものである。
2 本件の理解のためには、被告らの言論が一因となって原告に生じた苛烈な被害実態などの社会的事実についての認識が不可欠であることから、本訴状では、「第2 当事者」に続いて、「第3 被告らの名誉毀損行為に至る経緯等」として、本件の背景となる社会的事実の概要を記載した後に、第4以下で被告らの不法行為責任について主張することとする。
第2 当事者
1 原告について (省略)
2 被告櫻井良子について
被告櫻井良子(以下「被告櫻井」という)は、ハワイ州立大学文学部史学科卒業後、米国「クリスチャンサイエンスモニター」東京支局助手、アジア新聞財団「DEPTH NEWS」記者、東京支局長、ニュースキャスターを経て、現在は公益法人国家基本問題研究所の代表理事を務めるとともに、「櫻井よしこ」の名でジャーナリストとして活動している。
被告櫻井には、多数の著作があり、1995年には『エイズ犯罪 血友病患者の悲劇』で、第26回大宅壮一ノンフィフィクション賞を受賞し、現在は、「週刊新潮」誌上において「日本ルネサンス」、「週刊ダイヤモンド」誌上において「新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽」というコラムを連載している。さらに、自ら「櫻井よしこオフィシャルサイト」というウェブサイト(http://yoshiko-sakurai.jp/。以下「被告櫻井サイト」という。)を運営するほか、テレビやインターネット等でも幅広く言論発信している。
3 被告ワック株式会社について
被告ワック株式会社(以下「被告ワック」という)は、雑誌、単行本の発行ならびに販売等を業とする株式会社であり、月刊誌「雑誌WiLL」を発行している。月刊誌「雑誌WiLL」の発行部数は公表されていないが、全国の書店等で広く販売されている(甲1)。
4 被告株式会社新潮社について
被告株式会社新潮社(以下「被告新潮社」という)は、書籍および雑誌の出版等を業とする株式会社であり、「週刊新潮」を発行している。一般社団法人日本雑誌協会によれば、2014年7月から同年9月までの「週刊新潮」の平均発行部数は56万部余である(甲2)。
5 被告株式会社ダイヤモンド社について
被告株式会社ダイヤモンド社(以下「被告ダイヤモンド社」という)は、日刊新聞、雑誌及び通信の販売等を業とする株式会社であり、「週刊ダイヤモンド」を発行している。一般社団法人日本雑誌協会によれば、2014年7月から同年9月までの「週刊ダイヤモンド」の平均発行部数は13万部余である(甲3)。
第3 被告らによる名誉毀損行為に至る経緯等
1原告による慰安婦報道記事の発表
(1)1991年8月11日付朝日新聞大阪本社社会面記事(甲4) (省略)
(2)金学順氏の記者会見及び国内外の報道 (省略)
(3)1991年12月25日付朝日新聞記事(甲6) (省略)
2 原告に対するいわれのないバッシングのはじまり
(1)週刊文春2014年2月6日号(甲18)による原告バッシング (省略)
(2)原告の雇用大学に対してなされた不当な攻撃(甲29~31) (省略)
3 原告の家族に対する不当な攻撃(甲29~31) (省略)
4 被告櫻井によるいわれのない攻撃
被告櫻井は、上記週刊文春記事2014年2月6日号の記事発表後、連載を抱える週刊新潮や週刊ダイヤモンド誌上において、原告の慰安婦記事について「植村記者が、真実を隠して捏造記事を報じたのは、義母の訴訟を支援する目的だったと言われても弁明できないであろう。」(雑誌WiLL2014年4月号41頁下段、甲7)、「氏は韓国の女子挺身隊と慰安婦を結びつけ、日本が強制連行したとの内容で報じたが、挺身隊は勤労奉仕の若い女性たちのことで慰安婦とは無関係だ。植村氏は韓国語を操り、妻が韓国人だ。その母親は、慰安婦問題で日本政府を相手どって訴訟を起こした『太平洋戦争犠牲者遺族会』の幹部である。植村氏の『誤報』は単なる誤報ではなく、意図的な虚偽報道と言われても仕方がないだろう。」(週刊新潮2014年4月17日号135頁3段目及び4段目、甲8)、「若い少女たちが強制連行されたという報告の基となったのが「朝日新聞」の植村隆記者(すでに退社)の捏造記事である。植村氏は慰安婦とは無関係の女子挺身隊という勤労奉仕の少女たちと慰安婦を結び付けて報じた人物だ。」(週刊ダイヤモンド2014年9月13日掲載コラム、甲10)などと、「捏造」「捏造記事」「捏造報道」と断定し、攻撃を繰り返すようになった。
さらに、被告櫻井は、「こんな人物に、はたして学生を教える資格があるのか、と。一体、誰がこんな人物の授業を受けたいだろうか。」(雑誌WiLL2014年4月号42頁下段、甲7)、「植村氏は北星学園大の人格教育にどのように貢献すると考えるか。」(週刊新潮2014年10月23日号144頁2段目及び3段目、甲9)、「二十三年間も捏造報道の訂正も説明もせず、頬被りを続ける植村氏を教壇に立たせて学生に教えさせることが大学教育のあるべき姿なのか、と北星学園大学にも問いたい」(同誌144頁4段目、甲9)などと、原告の教員適格性までも攻撃するに至った。
このように、被告櫻井は著名なジャーナリストでありながら、原告の慰安婦についての記事が「捏造」「意図的な虚偽報道」であると繰り返すことにより、原告が新聞記者として築きあげた社会的評価を失墜させた。そして、同被告のこれらの言説に力を得た一部読者が匿名で北星学園大学や家族に対する不当な攻撃を重ねているのである。
5 被告櫻井による原告に対する攻撃には根拠がないこと
(1)被告櫻井による原告に対するいわれのない攻撃の論拠
ところで、被告櫻井による原告の慰安婦記事に対するいわれのない攻撃の論拠を整理すれば次の2点にある。
① 原告の義母は元慰安婦の裁判も支援した遺族会の幹部を務めているが、義母の運動を支援する目的で、慰安婦記事を書いた。
② 工場などの勤労動員である「挺身隊」と「従軍慰安婦」は全く異なるものであるにも関わらず、両者を意図的に結びつけて日本が強制連行したと報じた。
これらを根拠に原告の慰安婦記事は「捏造」及び「意図的な虚偽報道」であると結論付けている。
しかしながら、これらは以下のとおり、いずれも根拠のないものである。
(2)義母の運動を支援する目的はなかったこと
原告が1991年8月11日の記事(別紙記事A)を書くに至ったのは、当時のソウル支局長から挺対協の尹貞玉氏が慰安婦の聞き取り調査をしているという情報を提供されたことがきっかけであった。また、金学順氏から聞き取りを行っていたのは、原告の義母が幹部を務める「遺族会」ではなく、「挺対協」という性格の異なる別組織であった。
このように原告が義母の運動を支援する目的のもと記事を書いたというのは根拠のない憶測に過ぎず、そのような事実は存在しない(甲27、28)。
(3)女子挺身隊と慰安婦を意図的に結びつけた事実はないこと
前述(第3・1(1))のとおり、原告が慰安婦に関する記事を書いた当時、韓国では「挺身隊」という言葉は「慰安婦」を意味していた。その理解が日本のメディアにおいても踏襲され、原告の記事が掲載される前から、慰安婦の説明として「挺身隊」「女子挺身隊」という言葉が使われていた。
朝日新聞においては1984年8月25日付東京版朝刊「戦時中動員された韓国人女子てい身隊」(甲19)、1991年7月31日付東京版朝刊「『女子挺身隊』の名で戦場に送られた朝鮮人従軍慰安婦」と記載されていた(甲23)。
他紙においても、1987年8月14日付東京読売新聞夕刊で「従軍慰安婦の実態伝える『女子挺身隊』の悲劇 劇団夢屋第三作」(甲20)、1991年6月4日付毎日新聞朝刊「『女子挺身隊』の名目で強制的に戦地に送られ」(甲21)、1991年7月12日付毎日新聞朝刊「『女子挺身隊』などの名目で徴発された朝鮮人女性たち」(甲22)というように、慰安婦は「挺身隊」「女子挺身隊」と表記されていたのである。慰安婦と挺身隊とが明確に異なったものであるとして報道した新聞記事は見受けられない。
原告は、このような当時の社会認識及び新聞等メディアにおける表記にならった用語を用いたに過ぎなかったのである。
また、原告は、別紙記事Aにおいて「だまされて慰安婦にされた」、別紙記事Bでは「『そこへ行けば金もうけができる』こんな話を、地区の仕事をしている人に言われました。仕事の中身はいいませんでした。近くの友人と2人、誘いに乗りました。」とあるように、金学順氏は騙されて慰安婦にされたと記事にしており、強制連行されたという表現を用いていない。
したがって、原告が、慰安婦と女子挺身隊とがそれぞれ異なる概念であることを知りながら国家による強制連行性を強調するために両者を意図的に結びつけた事実はない。
よって、原告の記事は「捏造」や「意図的な虚偽報道」ではない(甲27、28)。
(4)以上のとおり、被告櫻井の原告の慰安婦記事に対する攻撃には、何ら理由がないことは明らかである。
これは2014年8月5日の朝日新聞の慰安婦記事に関する検証記事においても、原告の記事について「植村氏の記事には、意図的な事実のねじ曲げなどはありません。91年8月の記事の取材のきっかけは、当時のソウル支局長からの情報提供でした。義母との縁戚関係を利用して特別な情報を得たことはありませんでした。」と結論付けているとおりである。
しかし、被告櫻井は原告の慰安婦についての記事が「捏造」「意図的な虚偽報道」と繰り返し断定することで、原告が新聞記者として築いた社会的評価を失墜させた。そして、被告櫻井の言説に煽られたかのように、匿名性のもと北星学園大学や原告の家族に対する脅迫が繰り返されているのである。
第4 被告らの不法行為
1 名誉毀損による不法行為責任の成否 (省略)
2 被告櫻井の不法行為責任
(1)被告櫻井の記事中の名誉毀損部分
被告櫻井の雑誌WiLL、週刊新潮、週刊ダイヤモンド誌並びに被告櫻井サイト上における原告に関する記事のうち、名誉毀損に該当とすべきは以下の部分である
ア 雑誌WiLL2014年4月号掲載論文(甲7。以下「櫻井論文ア」という)
①「過去、現在、未来にわたって日本国と日本人の名誉を著しく傷付ける彼らの宣伝はしかし、日本人による「従軍慰安婦」捏造記事がそもそもの出発点となっている。日本を怨み、憎んでいるかのような、日本人によるその捏造記事はどんなものだったのか。……植村隆氏の署名入り記事である。」(同誌40頁下段)
②「植村記者が、真実を隠して捏造記事を報じたのは、義母の訴訟を支援する目的だったと言われても弁明できないであろう。」(同誌41頁下段)
③「氏の捏造記事を、朝日新聞は訂正もせずに大々的に紙面化した。」(同上)
④「植村記者の捏造は、朝日新聞の記事や社説によって事実として位置づけられ、広がっていった。」(同誌42頁上段)
⑤「改めて疑問に思う。こんな人物に、はたして学生を教える資格があるのか、と。一体、誰がこんな人物の授業を受けたいだろうか。教職というのはその人物の人格、識見、誠実さを以て全力で当たるべきものだ。植村氏は人に教えるより前に、まず自らの捏造について説明する責任があるだろう。」(同誌42頁下段)
イ 週刊新潮2014年4月17日号掲載論文(甲8。以下「櫻井論文イ」という)
①「意図的な虚偽報道」との見出し(同誌135頁2段目)
②「氏は韓国の女子挺身隊と慰安婦を結びつけ、日本が強制連行したとの内容で報じたが、挺身隊は勤労奉仕の若い女性たちのことで慰安婦とは無関係だ。植村氏は韓国語を操り、妻が韓国人だ。その母親は、慰安婦問題で日本政府を相手どって訴訟を起こした『太平洋戦争犠牲者遺族会』の幹部である。植村氏の『誤報』は単なる誤報ではなく、意図的な虚偽報道と言われても仕方がないだろう。」(同誌135頁3段目及び4段目)
ウ 週刊新潮2014年10月23日号掲載論文(甲9。以下「櫻井論文ウ」という)
①「植村氏は北星学園大の人格教育にどのように貢献すると考えるか、と。23年前、女子挺身隊と慰安婦を結びつける虚偽の記事を書いた植村氏は、10月14日の今日まで、自身の捏造記事について説明したという話は聞こえてこない。」(同誌144頁2段目及び3段目)
②「23年間、捏造報道の訂正も説明もせず頬被りを続ける元記者を教壇に立たせ学生に教えさせることが、一体、大学教育のあるべき姿なのか。」(同誌144頁3段目)
③「しかし、植村氏の捏造報道と学問の自由、表現の自由は異質の問題である。」(同誌144頁4段目)
④「この女性、金学順氏は女子挺身隊の一員ではなく、貧しさゆえに親に売られた気の毒な女性である。にも拘らず、植村氏は金氏が女子挺身隊として連行された女性たちの中の生き残りの一人だと書いた。一人の女性の人生話として書いたこの記事は、挺身隊と慰安婦は同じだったか否かという一般論次元の問題ではなく、明確な捏造記事である。」(同誌144頁4段目及び145頁1段目)
エ 週刊ダイヤモンド2014年9月13日掲載論文(甲10。以下「櫻井論文エ」という)
「若い少女たちが強制連行されたという報告の基となったのが「朝日新聞」の植村隆記者(すでに退社)の捏造記事である。植村氏は慰安婦とは無関係の女子挺身隊という勤労奉仕の少女たちと慰安婦を結び付けて報じた人物だ。」(コラム中段)
オ 週刊ダイヤモンド2014年10月18日号掲載論文(甲11。以下「櫻井論文オ」という。)
「ならば捏造かと考えるのは当然である。植村氏が捏造ではないと言うのなら、証拠となるテープを出せばよい。そうでもしない限り、捏造だと言われても仕方がない。」(コラム下段)
力 週刊ダイヤモンド2014年10月25日号掲載論文(甲12。以下「櫻井論文力」という)
「慰安婦と女子挺身隊を一体のものとして捏造記事を物した植村隆・朝日新聞元記者」(コラム中段)
キ 被告櫻井サイトへの転載(甲13~17)
被告櫻井は、別紙名誉毀損部分一覧表記載のとおり、イないし力の記述(以下「本件各記述」と総称し、「本件記述①」等と番号を付して特定する。)を含むイないし力の各論文を、被告櫻井サイトの「コラム」欄に掲載している。
(2)名誉毀損部分は事実を摘示するものであること
ア 各櫻井論文について
(ア)櫻井論文アについて
櫻井論文ア①の記述は、原告の別紙記事Aを「捏造記事」と断定するものであり、原告の別紙記事Aは捏造であるとの事実を摘示するものである。
②の記述は、原告が義母の訴訟を支援する目的で記事を捏造したとするもので、同事実を摘示したものである。
③及び④の記述は、原告が執筆した記事は捏造であると断定するもので、その旨事実を摘示するものである。
⑤の記述は、原告が記事を捏造したと断定するものでその旨事実を摘示するとともに、捏造記事を書いたという事実を前提として、教員としての適格性を欠くという事実を摘示するものである。
(イ)櫻井論文イについて
原告の記事Aが意図的な虚偽報道であるとの事実を摘示するものである。
(ウ)櫻井論文ウについて
櫻井論文ウ①、③及び④の記述は、原告の慰安婦記事を捏造であると断定するもので、同事実を摘示したものである。②の記述は、原告が慰安婦記事を捏造したと断定しつつ、教員としての適格性を欠くという事実を摘示するものである。
(エ)櫻井論文工ないし同力について
いずれも、原告の執筆した慰安婦記事が捏造であると断定するもので、その旨事実を摘示するものである。
(3)被告櫻井各論文は原告の社会的評価を低下させること
被告櫻井各論文(被告櫻井サイトに転載されたものも含む。)は、原告の慰安婦記事が「捏造」や「意図的な虚偽報道」であると指摘するものである。
ところで、「捏造」とは、「事実でない事を事実のようにこしらえること」(広辞苑6版、岩波書店)、「事実でないことを事実のようにこしらえること。でっちあげること」(大辞泉第2版、小学館)であり、新聞記事について言えば、単なる表現上の誤りや誤報であったことを超えて、意図的に事実ではないことを知りながら事実のようにこしらえ又はでっちあげて記事に書くことである。
しかるに、公正な立場で取材をし事実を正確に伝えることを使命とする新聞記者にとって、記事を「捏造」と断定されることは、職業的信用を根底から覆す表現であり、被告櫻井の「捏造」という表現は、原告の新聞記者として築き上げたその社会的信用を著しく低下させることは明らかである。これは「意図的な虚偽報道」という表現でも同じである。
また、原告は大学教員として新聞記者の経験を生かして人材育成に貢献したいと考えていたが、被告櫻井が、原告は新聞記者時代に慰安婦の「捏造」記事を書いたという事実を前提として教員としての適格性を否定することは、原告の教員としての社会的信用をも著しく低下させるものである。
(4)違法性
ア さらに、被告櫻井は原告が慰安婦記事を「捏造」や「意図的な虚偽報道」であると断定するが、原告の記事が「捏造」や「意図的な虚偽報道」でないことは前述(第4・5)のとおりであり、被告櫻井の摘示した事実が真実でないことは明らかである。
イ また、原告の記事が「捏造」や「意図的な虚偽報道」でないことは、原告に取材するなどすれば容易に知ることができるにも関わらず、原告に取材すらしていないのである。加えて、女子挺身隊が慰安婦と同義に用いられていた事実は、当時の新聞記事を検索すれば容易に明らかになったことである。さらに、原告が義母の支援のために記事にしたとの被告櫻井の指摘は、単なる憶測に過ぎず何ら根拠がない。
したがって、被告櫻井の摘示した事実には、真実であると信じるについて相当の理由もない。
(5)結論
慰安婦問題が国の内外において重大な争点となっており、ネット空間などではこれを巡り脅迫的言動が飛び交うまでになっている時期に、著名なジャーナリストでありその発言に強い社会的影響力を有する被告櫻井が、多数の発行部数を有する雑誌において慰安婦記事の真偽について発言をしその内容を自らのウェブサイトに転載する際には十分な取材に基づくべきである。それにも関わらず、被告櫻井は、原告に取材をすることすら行わないまま、23年前に執筆した原告の慰安婦記事を根拠もなく「捏造」「意図的な虚偽報道」と断定し、これを理由に原告の教員としての適格性を否定することは、原告に対する人格非難にまで至っていると評価するほかない。
よって、被告櫻井は公然と真実でない事実を摘示して原告の社会的評価を著しく低下させたものであり、同行為が不法行為となることは明らかである。
2 被告ワックの不法行為責任
被告ワック発行の雑誌WiLLに掲載された櫻井論文アの表現は、原告が慰安婦記事を「捏造」したというものであり、原告の新聞記者としての社会的評価を低下させるものであるとともに、教員としての社会的信用をも著しく低下させる表現である。
また、原告の記事が「捏造」でないことは前述のとおりであるから摘示事実は真実でなく、また、原告の記事が「捏造」でないことは容易に知ることができるのであり真実であると信じるにつき相当の理由もない。
よって、被告ワックのこれらの表現は原告の名誉を毀損するものであり、不法行為となる。
3 被告新潮社の不法行為責任
被告新潮社発行の週刊新潮に掲載された櫻井論文イ及び櫻井論文ウの表現は、原告が慰安婦記事を「捏造」や「意図的な虚偽報道」をしたというものであり、原告の新聞記者としての社会的評価を低下させるものであるとともに、教員としての社会的信用をも著しく低下させる表現である。
また、原告の記事が「捏造」や「意図的な虚偽報道」をしたものでないことは前述のとおりであるから摘示事実は真実でなく、また、原告の記事が「捏造」「意図的な虚偽報道」をしたものでないことは原告に取材するなどすれば容易に知ることができるのであり真実であると信じるにつき相当の理由もない。
よって、被告新潮社のこれらの表現は原告の名誉を毀損するものであり、不法行為となる。
4 被告ダイヤモンド社の不法行為責任
被告ダイヤモンド社発行の週刊ダイヤモンドに掲載された櫻井論文工乃至櫻井論文力の表現は、原告が慰安婦記事を「捏造」したというものであり、原告の新聞記者としての社会的評価を低下させるものであり、原告の名誉を毀損するものである。
また、原告の記事が「捏造」でないことは前述のとおりであるから摘示事実は真実でなく、また、原告の記事が「捏造」でないことは原告に取材するなどすれば容易に知ることができるのであり、真実であると信じるにつき相当の理由もない。
よって、被告ダイヤモンド社のこれらの表現は原告の名誉を毀損するものであり、不法行為となる。
5 被告らの共同不法行為責任
被告櫻井と被告ワックとは櫻井論文アの記事について、被告櫻井と被告新潮社は櫻井論文イ及びウの記事について、被告櫻井と被告ダイヤモンド社は櫻井論文エないし力について、それぞれ共同不法行為責任を負う。
第5 原告の損害 (省略)
第6 本件各記述の削除請求と削除の必要性 (省略)
第7 原告の名誉回復の措置 (省略)
第8 結論 (省略) 以下省略
凡例▼人名、企業・組織・団体名はすべて原文の通り実名としている▼敬称は一部で省略した▼PDF文書で個人の住所、年齢がわかる個所はマスキング処理をした▼引用文書の書式は編集の都合上、変更してある▼年号は西暦、数字は洋数字を原則としている▼重要な記事はPARTをまたいであえて重複収録している▼引用文書以外の記事は「植村裁判を支える市民の会ブログ」を基にしている
updated: 2021年8月25日
updated: 2021年10月18日