朝日・植村バッシングが起きたのは、植村記事が掲載された1991年から23年後の2014年だった。その翌2015年、植村裁判は始まり、2021年に終結した。記事掲載から裁判終結まで30年。この間の慰安婦問題の動きとともに、植村裁判の軌跡をたどる
◆年表 植村裁判の軌跡 1991~2021
1991年~2013年 |
1991.8.11 植村隆氏が元慰安婦の匿名証言テープの内容を報じる。「思い出すと今も涙」の見出しで、朝日新聞大阪本社版社会面に掲載。この記事は植村裁判では記事Aという ➡記事
8.14 ソウル在住の元慰安婦・金学順氏が名乗り出て記者会見し、被害体験を語る
12.6 金学順氏ら韓国人の元慰安婦、日本軍人・軍属遺族が日本政府を相手取り損害賠償請求裁判を起こす
12.25 植村氏が金学順氏の弁護団聞き取り内容を報じる。朝日新聞大阪本社版に「かえらぬ青春 恨の半生」の見出しで掲載。記事Bという
1992.1.17 宮澤喜一首相が日韓首脳会談で盧泰愚大統領に慰安婦問題で謝罪
3月 月刊「文藝春秋」で西岡力氏が植村氏の記事を「重大な事実誤認」などと批判
1993.8.4 河野洋平官房長官が慰安婦問題で「おわびと反省」を表明(河野談話)
1995.7.19 政府主導で「女性のためのアジア平和国民基金」(アジア女性基金)が発足
8.15 村山富市首相が「植民地支配と侵略」への反省とお詫びを表明(村山談話)
1996.4.19 国連人権委員会がクマラスワミ報告書に基づき「女性に対する暴力」決議を採択
6.27 97年度中学校社会科教科書の検定結果が公表される。7社すべてに慰安婦が記述される
12.2 「新しい歴史教科書をつくる会」が設立の記者会見
1997.2.27 安倍晋三氏らが「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」を結成
1998 6月 月刊「正論」で西岡氏が植村氏の記事を「捏造報道」「捏造記事」と批判
1999 8月 中学校の社会科教科書4社が慰安婦記述を削除
2001.1.30 女性国際戦犯法廷を特集したNHK番組が放送前に改変される
5.8 韓国政府が日本政府に中学校歴史教科書の記述修正を要求
2002.9.30 アジア女性基金の「償い金」事業が終了
2006.9.26 安倍晋三氏が首相に就任(2007.9辞任)
2007.3.16 安倍内閣が慰安婦問題で「いわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」との答弁書を閣議決定
3.31 アジア女性基金解散
6.14 櫻井よしこ氏ら米ワシントンポスト紙に「慰安婦の強制性を否定する」意見広告を掲載
6.22 西岡力「よくわかる慰安婦問題」(草思社)が刊行される
7.30 米下院本会議が慰安婦問題で日本政府に謝罪を求める決議を採択
2009.9.16 民主党に政権交代、鳩山由紀夫氏が首相に
2011.12.14 ソウルの日本大使館前の「水曜デモ」が1000回になり、「慰安婦像」が設置される
2012 4月 植村氏(当時、朝日新聞北海道報道センター)が北星学園大学の非常勤講師になる
12.14 西岡力「よくわかる慰安婦問題 増補版」(草思社)が刊行される
12.26 第2次安倍政権発足。「河野談話」の見直しを求める声が強まる
2013.7.30 米カリフォルニア州グレンデールで市民団体が米国で初の「慰安婦像」を設置
2014年~2021年 |
2014年
1.30週刊文春が「”慰安婦捏造”朝日新聞記者がお嬢様大学に」の記事を掲載(2月6日号)。神戸松蔭女子学院大学に問い合わせや批判、抗議が寄せられる。櫻井よしこ氏も大学に問い合わせをする
2.20 衆院予算委で自民議員が河野談話作成過程の検証を求める
2.28 菅義偉官房長官が河野談話作成過程の検討チーム設置を発表
3.14 安倍首相が参院予算委で河野談話について「見直すことは考えていない」と表明
3月 神戸松蔭女子学院大学が植村隆氏の教授就任契約を解消。植村氏が朝日新聞社を早期退職
5月 植村氏が非常勤講師を務める北星学園大学に対する抗議や脅迫、いやがらせが始まる
8.4-5朝日新聞が慰安婦報道検証記事を掲載、「吉田清治証言」に関連する記事16本を取り消し、植村氏の記事については「事実のねじ曲げない」と説明し、「捏造」を否定 ➡記事 新聞雑誌テレビがいっせいに朝日批判を開始、北星学園大と植村氏・家族へのバッシングが激化
9.11 朝日新聞社の木村伊量社長が記者会見し、「吉田証言」記事などの訂正遅れと、池上彰コラム掲載見送りについての説明不足などを謝罪(12.5社長を辞任)
10.6全国の大学人ら43人が呼びかけて「負けるな北星!の会」を結成。東京、札幌で記者会見
12.22 朝日新聞社が慰安婦報道に関する第三者委員会報告書を紙面で公表 ➡記事
12.23 朝日新聞社が慰安婦報道について「お詫びと訂正」を紙面に掲載、「吉田証言」記事18本(追加2本)を取り消し、植村氏の記事については一部を訂正し、「事実のねじ曲げ」を改めて否定
2015年
1.9植村氏が文藝春秋と西岡力氏を東京地裁に提訴 ➡動画
1.26 「朝日新聞を糺す国民会議」が朝日新聞社を東京地裁に提訴。対朝日集団訴訟が始まる
2.9 「朝日新聞を正す会」が朝日新聞社を東京地裁に提訴
2.10植村氏が櫻井よしこ氏と新潮社、ワック、ダイヤモンド社を札幌地裁に提訴
2.18 在米日本人らが朝日新聞社を東京地裁に提訴(朝日グレンデール訴訟)
4.27東京地裁で第1回口頭弁論。報告集会(参議院議員会館)で山口二郎氏が講演
5.29櫻井氏側の申立により札幌地裁が訴訟を東京地裁に移送すると決定。植村氏側は即時抗告。8.31札幌高裁が札幌地裁の東京移送決定を棄却。11.25最高裁が櫻井氏側の特別抗告を棄却
6.29東京第2回口頭弁論、小林節氏が意見陳述。報告集会(参議院議員会館)で山口正紀氏が講演9.19 安全保障関連法案が成立
10.26東京第3回口頭弁論。報告集会(参議院議員会館)で中野晃一氏が講演
2016年
2.17東京第4回口頭弁論。報告集会(参議院議員会館)で青木理氏と植村氏が対談
2.26植村氏が手記「真実 私は捏造記者ではない」を岩波書店から刊行
3.1 植村氏が韓国カトリック大学客員教授に着任
4.12 「植村裁判を支える市民の会」が発足、事務局を札幌市に置く
4.22札幌地裁で第1回口頭弁論。報告集会(かでる会議室)で佐高信氏が講演 ➡記者会見動画
5.18東京第5回口頭弁論。報告集会(衆議院第2議員会館)で佐高信氏が講演
5月 週刊金曜日が「私は捏造記者ではない――検証・植村バッシング」抜き刷り版を発行
6.10札幌第2回口頭弁論。報告集会(札幌市教育文化会館)で玄武岩氏が講演
7.29札幌第3回口頭弁論。報告集会(札幌市教育文化会館)で野田正彰氏が講演
8.3東京第6回口頭弁論。報告集会(弁護士会館)で香山リカ氏、新崎盛吾氏、岩崎貞明氏がパネルディスカッション。同日、東京地裁が植村氏の長女をツイッターで中傷した男に対して、損害賠償支払いを命ずる判決
8-9 植村氏が全国講演ツアー(北海道、愛知、九州の12市町)で「私は捏造記者ではない」と訴える
10.31 「負けるな北星!の会」が解散、「大学と市民をつなぐ貴重な実践だった」と宣言で総括
11.4札幌第4回口頭弁論。報告集会(札幌市教育文化会館)で俵義文氏が講演
12.14東京第7回口頭弁論。報告集会(参議院議員会館)で崔江以子氏が挨拶
12.16札幌第5回口頭弁論。報告集会(札幌市教育文化会館)で渡辺美奈氏が講演
2017年
2.2-5植村氏が沖縄県各地で講演、地元紙が大きく報道
2.10札幌第6回口頭弁論。報告集会(札幌市教育文化会館)で外岡秀俊氏が講演
4.8 産経新聞が訂正記事を掲載(2016.4.25付け記事で札幌訴訟の賠償請求金額を誤る)
4.12東京第8回口頭弁論。報告集会(参議院議員会館)で渡邊知行氏とD・マクニール氏が講演
4.14札幌第7回口頭弁論。報告集会(札幌北光教会)で崔善愛氏がピアノ演奏
6.29 吉見義明・元中央大教授の名誉棄損訴訟で最高裁が上告を退け、吉見氏の敗訴が確定 ➡記事
7.6 負けるな北星!の会記録集「市民はかく闘った――北星学園大学バッシング」が刊行される
7.7 札幌第8回口頭弁論。報告集会(札幌市教育文化会館)で内海愛子氏が挨拶
7.12東京第9回口頭弁論。報告集会(参議院議員会館)で菱木一美氏が講演
8.4-22植村氏が全国講演ツアー。北陸、中部、中国、九州10会場で講演 ➡記事
9.1植村氏が産経新聞社の記事訂正を求め東京簡裁に調停申し立て(2014.3.3付け櫻井コラムについて)
9.8札幌第9回口頭弁論。報告集会(北海道自治労会館)で田中宏氏が講演
10.11東京第10回口頭弁論。報告集会(参議院議員会館)で楊井人文氏が講演
10.13札幌で報告集会(北海道高教組会館)、高島伸欣氏が講演
11.22札幌で報告集会(札幌市教育文化会館)、楊井人文氏が講演
11.22 植村裁判を支える市民の会と東京支援チームが「徹底解説マガジン植村裁判」を刊行
2018年
1.6東京で植村氏支援コンサートを開催(成城ホール)。松元ヒロ氏、崔善愛氏が出演
1.11札幌で「植村裁判を支える市民の会」新春の集いを開催(北海道自治労会館)
1.31東京第11回口頭弁論。報告集会(参議院議員会館)で望月衣塑子氏が講演
2.8 「朝日・グレンデール訴訟」で東京高裁が原告の控訴を棄却、原告は上告をせず。3つのグループによる対朝日集団訴訟はすべて原告敗訴が確定した
2.16札幌第10回口頭弁論、喜多義憲氏(元北海道新聞記者)の証人尋問。報告集会(札幌エルプラザ)で池田恵理子氏が講演
3.23札幌第11回口頭弁論、植村氏と櫻井氏の本人尋問。櫻井氏が寄稿記述(月刊WiLLと産経新聞)の一部誤りを認める。報告集会(北海道自治労会館)で能川元一氏と安田浩一氏が対談
4.25 東京第12回口頭弁論。報告集会(参議院議員会館)で安田浩一氏と小野寺信勝弁護士が対談
5.25 月刊WiLL7月号が訂正記事を掲載(同誌2014年4月号掲載の櫻井論文について)
6.4 産経新聞が訂正記事を掲載(同紙2014.3.3付け櫻井コラムについて)。 7.2調停は不成立で終結
7.6 札幌第12回口頭弁論(結審)。報告集会(札幌エルプラザ)で永田浩三氏が講演
9.5 東京第13回口頭弁論、植村氏と西岡氏の本人尋問、竹中明洋氏の証人尋問。西岡氏が著作の記述と週刊文春でのコメントの一部誤りを認める。報告集会(日本プレスセンター)で香山リカ氏と崔善愛氏が対談
9.26 植村氏が(株)週刊金曜日社長に就任、「週刊金曜日」発行人を兼務
11.9 札幌訴訟判決言い渡し、植村氏の請求を棄却(岡山忠広裁判長) ➡動画 報告集会(かでる会議室)で植村氏が控訴の決意表明。上田文雄、北岡和義、岩上安身、安田浩一、新崎盛吾、南彰氏らがリレートークで判決を批判
11.28 東京第14回口頭弁論、結審し判決日を2019年3月20日と指定。報告集会(日比谷図書文化館)で札幌弁護団が判決分析報告、東京弁護団が情勢を報告
12.5 「慰安婦報道『捏造』の真実」(植村裁判取材チーム著)が花伝社から刊行される
2019年
2.8 東京地裁原克也裁判長が双方の弁護団に「口頭弁論を再開し被告に証拠を追加提出させる」と通告
2.22 東京第15回口頭弁論、植村弁護団は裁判長の訴訟指揮に抗議し退席、原裁判長らの忌避申立書を東京地裁に提出。2.27 東京地裁が申し立てを却下。その後、東京高裁が抗告棄却、最高裁が特別抗告を却下
3.20 東京で報告集会(日比谷図書文化館)、中島岳志氏と青木理氏が対談
4.1 裁判所の人事異動で原裁判長ら植村裁判担当の3裁判官が東京地裁外に転出
4.15 札幌高裁に公正な判決を求める署名締め切り。 4.25 3分冊計13,090筆の署名簿を札幌高裁に提出
4.20 映画「主戦場」(ミキ・デザキ監督)が東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムで公開
4.25 札幌控訴審第1回口頭弁論。報告集会(札幌市教育文化会館)で徃住嘉文氏が講演
5.10 東京第16回口頭弁論、結審。報告集会(参議院議員会館)で徃住嘉文氏と西嶋真司氏が発言
6.26 東京訴訟判決言い渡し、植村氏の請求を棄却(原克也裁判長、大濱寿美裁判長代読)。報告集会(参議院議員会館)で植村氏が控訴の決意表明、北岡和義、安田浩一、新崎盛吾、南彰、西嶋真司、豊秀一氏らがリレートークで判決を批判
7.2 札幌控訴審第2回口頭弁論。報告集会(札幌市教育文化会館)で李富栄氏が講演
10.10 札幌控訴審第3回口頭弁論(結審)。報告集会(札幌市教育文化会館)に韓国の「植村隆を考える会」のメンバー12人が出席し挨拶
10.29 東京控訴審第1回口頭弁論。報告集会(参議院議員会館)で映画「標的」短縮版を上映
12.26 東京控訴審第2回口頭弁論(結審)。報告集会(参議院議員会館)で江川紹子氏が講演
2020年
2.6 札幌控訴審判決言い渡し、植村氏の控訴を棄却(冨田一彦裁判長)。報告集会(札幌エルプラザ)で植村氏が上告の決意表明、弁護団が判決分析報告、上田文雄、南彰氏らが激励トーク
2.8 北海道新聞が社説で札幌控訴審判決を取り上げ、「取材尽くす責任は重い」と櫻井の取材態度に言及
3.3 東京控訴審判決言い渡し、植村氏の控訴を棄却(白石史子裁判長)➡動画 報告集会(日本教育会館)で植村氏が上告の決意表明。北原みのり氏と大森典子弁護士が対談(集会は新型コロナ感染症拡大を考慮し支援関係者に限定して開催)
4.7 新型コロナウイルス感染広がり7都府県に緊急事態宣言。4.16全国に宣言拡大、5.25全国解除
5.15 日本マスコミ文化情報労組会議(MIC、南彰議長)が最高裁に「司法判断見直し」を求める要請を発表
9.16 安倍首相が辞任、菅義偉政権が発足
11.18 最高裁が札幌訴訟の植村氏の上告を棄却
11.21 安倍晋三氏がフェイスブックに「植村記者と朝日新聞の捏造が事実として確定したという事ですね」と投稿
11.24 植村氏が安倍氏に内容証明郵便で投稿に抗議し削除を求める。12月4日までに投稿は削除された
2021年
3.11 最高裁が東京訴訟の植村氏の上告を棄却
4.10 札幌で裁判終結報告会を開催(北海道自治労会館)。映画「標的」を上映、伊藤誠一弁護士と植村隆氏があいさつ、植村裁判を支える市民の会が最終メッセージを発表
8.7 東京で裁判最終報告会を開催(日比谷・プレスセンターホール、ZOOM配信)、金学順さんの名乗り出から30年を記念するトークイベントで西嶋真司、明珍美紀、喜多義憲、小田川興、池田恵理子、植村隆氏が発言
凡例▼人名、企業・組織・団体名はすべて原文の通り実名としている▼敬称は一部で省略した▼PDF文書で個人の住所、年齢がわかる個所はマスキング処理をした▼引用文書の書式は編集の都合上、変更してある▼年号は西暦、数字は洋数字を原則としている▼重要な記事はPARTをまたいであえて重複収録している▼引用文書以外の記事は「植村裁判を支える市民の会ブログ」を基にしている
updated: 2021年8月25日
updated: 2021年10月18日